文部科学省 地域イノベーション戦略支援プログラム 富山・石川地域
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ほくりく健康創造クラスター
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研究開発
食品成分の作用メカニズムおよび代謝様式の解明と機能性食品への応用
研究代表 富山県立大学工学部生物工学科 教授 榊 利之
U R L http://www.pu-toyama.ac.jp/BR/sakaki/
参画機関 石川県立大学、廣貫堂株式会社、サントリー株式会社、住化分析センター株式会社、神戸天然物化学株式会社
研究概要
   本研究の目的は、安全かつ優れた効能を有する機能性食品あるいは医薬品を開発することである。特に、本研究では、食品成分や医薬品の代謝に関与する酵素群を用いた有用物質生産や血糖値上昇抑制作用をもつ機能性食品の開発に焦点を当てている。
これまでに顕著な成果を挙げた研究課題としては、
(1)遺伝子工学的手法により活性を著しく上昇させることに成功した酵素を用いた活性型ビタミンDおよびその誘導体(骨粗鬆症や癌の治療薬)の生産、
(2)ヒト由来薬物代謝酵素群を発現する 遺伝子組換え酵母の菌体を用いたグルクロン酸抱合体(医薬品および食品成分の代謝物)生産技術の確立、
(3)アミラーゼおよびスクラーゼ活性を阻害する海藻(ホンダワラ科)抽出物を含む機 能性食品(血糖値低下作用を有する)
の開発で、いずれも事業化の可能性が高い。
元来、(2)は食品成分のヒト体内での代謝予測システムとして開発したものであるが、医薬品代謝物の安全性を 示すことを要求するFDAガイダンス(2008年2月)に対応できる技術として注目されている。
研究成果
研究概要に挙げた3 つのテーマについて、これまでの成果を述べる。

(1)変異型シトクロムP450を用いたビタミンD関連化合物の生産法の確立
 X線結晶構造解析により放線菌由来シトクロムP450の立体構造を明らかにし、その構造に基づ いて2 箇所のアミノ酸を置換した変異型シトクロムP450は野生型よりも400倍高い活性を示した。 変異型シトクロムP450を発現する放線菌はビタミンD3を基質として図1に示す代謝様式で活性型ビタミンD3 (1α,25-ジヒドロキシビタミンD3)を生産したが、さらに、26位を水酸化し、1α,25,26-トリヒドロキシビタミンD3を生産す ることがわかった。この物質は細胞増殖抑制作用が強く、カルシウム作用が弱いため、本物質あるいはその誘導体は癌の治療薬になる可能性が ある。


図1 変異型シトクロムP450を用いた活性型ビタミンD3の製造

(2)医薬品および食品成分の代謝物調製技術の確立
 ヒト由来シトクロムP450(CYP)、ヒト由来UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)とともにUDP-グルコース脱水素酵素遺伝子(UDPGDH)を酵母内 で共発現させることにより、酵母菌体を破壊することなく、グルクロン酸抱合体を簡便に生産することが可能になった(図2)。酵母菌体液に 医薬品あるいは食品成分を添加し、1日間攪拌するだけで、菌体外に排出されたグルクロン酸抱合体を容易に回収することに成功した。これに より、グルクロン酸抱合体生産性の飛躍的な上昇および生産コストの著しい低減化が可能になった。


図2 組換え酵母菌体を用いたグルクロン酸抱合体の生産

(3)血糖値上昇抑制作用をもつ特定保健用食品の開発
 糖代謝関連酵素の阻害を調べる独自のスクリーニングシステムを用いて多くの海藻を調べた結果、数種の海藻にきわめて強いアミラーゼ活性阻害 およびスクラーゼ活性阻害が認められた。海藻ヤツマタモクのエタノール抽出画分には、ヒト膵(唾液)アミラーゼ阻害活性があり、従来 知られている阻害剤より強いものであった。現在、NMRやLC-MSにより機能性成分の同定を試みており、ほぼ化学構造を明らかにすることができた。 また、海藻アカモクの抽出物には強いスクラーゼ阻害活性が見られ、マウスを用いた試験において血糖値上昇抑制効果が認められたため、糖尿病を 予防する健康補助食品さらには特定保健用食品の開発を目指す(図3 )。

図3  作用メカニズムと代謝様式の解明による特定保健用食品の開発

事業化への展望
これまでに、ビタミンD関連特許を1件、グルクロン酸抱合体関連特許を2 件出願した。グルクロン酸抱合体の生産に関しては今後、さらに 2 件の特許を出願する予定で、知財的優位性を確保するとともに、富山県立大学発ベンチャー企業を設立し、確固たる事業体制を築く予定である。海藻抽出物 を含む糖尿病予防食品については現在、製剤化を検討しており、健康補助食品として開発する予定であるが、大手企業の協力が得られれば特定保健用食品を 開発することも可能であると考えられる。



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