研究開発
脳老化・認知障害の早期診断・経時的評価のための総合システムの開発
研究概要
高齢化社会における認知症対策の一つに、認知症早期診断システムの構築がある。認知症早期診断は認知症予防につながる手法であり、認知症のない社会への重要な足がかりになる。この研究では、MEGを応用した解析法の開発を中心に、認知機能検査、脳画像検査等も取り入れ、脳老化や早期認知症を評価する新たな総合システムの開発を目的とし、以下のプロジェクトを遂行した。
A.研究基盤の構築-モデル地域住民を対象とした脳機能の縦断的観察研究[地域脳健診(なかじまプロジェクト)- :研究の基盤となる疫学データの集積および総合システムの開発のための被験者の抽出を行った。
B.脳老化・認知障害の早期診断・経時的評価のための総合システムの開発:地域研究基盤を用い、MEG、認知機能テスト、MRIを用いた脳老化・認知障害に関わ
る脳機能変化を評価する総合システムの開発を行った。
研究成果
A.研究基盤の構築
-モデル地域住民を対象とした脳機能の縦断的観察研究【地域脳健診(なかじまプロジェクト)】-
特定地域(七尾市中島町)の住民を対象とした脳老化・認知障害の調査を平成21年度から平成24
年度に渡り継続して行った。中島町の人口総計は6547名であり、高齢化率は平成24年 4 月の時点で
約35%であった。脳健診の対象である60歳以上の人口は2914名(男性:1247名 女性:1667名)(平成24年4月時点)であった。年度毎に行った脳健診の受診者数は表1に示した。
表1. 各年度における脳健診受診者数およびその平均年齢
年度 |
受診者数(男:女) |
平均年齢(標準偏差) |
平成21年度 |
352(109:243) |
73.7(6.9) |
平成22年度 |
358(123:235) |
73.4(7.1) |
平成23年度 |
535(182:353) |
74.5(7.0) |
平成24年度 |
506(198:308) |
74.1(7.6) |
脳健診評価項目は、1)アンケートによる既往歴・生活歴等の聴取、2)血液検査(遺伝子検査含む)、3)認
知機能検査(タッチパネル式検査、MMSE、HDS-R 、CDR)を用いた。平成22年度から平成24年度には、縦断的疫学調査の信憑性の評価し脳健診受診者と未受診者の認知症割合を評価するため、中島町の限定地域における住民全員を対象とした悉皆調査を行った。平成24年度10月末までに七尾市中島町にある 6 地区のうち 3 地区に
おいて60歳以上の住民(対象者数1388名)の約 9 割(1239名)について調査を行った。脳健診および悉皆調査にて、
認知症の割合が正確に把握され(図1)、認知症に関する疫学調査の重要なデータになると共に、脳老化・認知
障害の早期診断・経時的評価のための総合システムの開発研究における患者背景を詳細に把握し、認知症発症の推移をみる研究の基盤となった。
図1 地域在住高齢者における軽度認知障害および認知症の割合
-悉皆調査(全数調査)による認知機能評価結果-
B.脳老化・認知障害の早期診断・経時的評価のための総合システムの開発
MEG検査、MRI検査、認知機能検査を用いた総合的脳機能評価システムの開発では、MEG検査課題のプログラムを用いた脳機能評価を対象者に対して行った。平成24年11月までに100名の対象者に対して検査が行われデータを集積することができた。検査項目として、自発MEG解析(標準化脳を用いた解析方法を開発し解析)、誘発MEGとしてOptic flow 刺激や呼称課題を課して測定する方法を用いた。この研究で得られたデータは、認知症の研究において重要な画像データと生理学的なデータとが融合されたものであり、重要な知見を見出すことになると考えられた。